にんげんってなあ何だろう
なだらかな丘のぼれば
吹きすぎる風のそれにも
みょうにひとりを感じて
見上げれば空のあおさ
自分の存在の言いようもない心細さ
空のひどく深い
空のひどく深い あ・お・さ
ともすれば
ひとつふたつ浮かんでくるくもの
その在り方のうらやましさ
その白さへのいらだち
ふっと吐息をついたぼくは
さて これから何をしようか
*
たとえばそれは
海に向かって
小石を投げ続ける行為(こと)のように
人間ってなあ何だろう
人間ってなあ何だろう
・・・・・・・・
・・・・・・・・
今日のぼくは
ひどくつまらない男(やつ)だったような気がする
うわの空の冗談や
つまらないお為めごかし
わたしはわたしの夢をさがすのではなく
わたしはわたしの道を歩くのではなく
いや きっとそうなのだろうが
わたしの歩く道は
いつもわたしの歩く道と重ならず
わたしはわたしの姿見つめるのではなく
わたしはわたしの想い映すのではなく
いや きっとそうしたいのだろうが
わたしを映す鏡は
いつもわたしの影と重ならず
気が付けば
たいしておもしろくもない
世間話しに
笑ってあいづちをうつ自分が見える
人間ってなあ何だろう
現実ってなあ何だろう
部屋のすみのしみには
何かの姿に見えてきて
束の間めぐる物語り
人間ってなあ何だろう
夢ってなあ何だろう
きっとそうだ
夕日が美しいのではなく
花が星が美しいのではきっとなく
見つめる人の
その観念が見せるのだ
真白い画用紙に
青いインクが一滴落ちた
青い点はさみしい
白い画用紙はかなしい
人間ってなあ何だろう
意識ってなあ何だろう
汗流した者でなければ
吹く風の心地よさなんて
わかるはずもないだろう
人間ってなあ何だろう
苦労ってなあ何だろう
望んだものは何だったのか
待ちわびた季節(とき)はもう過ぎたのか
あこがれたものには
わたしは出逢えてのか
振り向けばながい距離(じかん)
わたしは歩いた気がする
見わたせば子供たち
わたしよりも後に生まれた者たち
その時間(ながさ)は何だったのか
その出逢いは何だったのか
わたしの意味は
・・・・・・・・
振り返れば
わたしは不幸ではなかった
むろん幸福だとは言えなくても
見わたせば子供たち
わたしよりも後に生まれた者たち
わたしはわたしを振り省る
わたしはわたしを見つめつつ
わたしの行方を歩くだろう
夢
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・・・・・・・・
現実
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生活
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そうしてひとりの男が死んだ
人間ってなあ何だろう
人生ってなあ何だろう
そうしてその木はそこにある
無言で立ち続けることで
果実をつけまた落とすことで
木は木としてそこにある
雨にうたれ
風にさらされ
まっすぐに夏の陽を受けることで
その木は木としてそこにある
ぼくはその木の根元にすわる
人間ってなあ何だろう
その存在はなぜだろう
ひとつひとつをハカリにかけて
他人より良ければほっとして
他人より悪けりゃひがみ出す
人間ってなあ何だろう
幸福ってなあ何だろう
果たしてあなたは存在(いる)のだろうか
そんなことはどうでもよくて
わたしは時にあなたにすがる
人間ってなあ何だろう
神ってなあ何だろう
月まで行った人間が
水爆つくった人間が
−メビウスの帯には
青い絵の具たらして−
目の前の花びらひとつ語り切れないで
人間ってなあ何だろう
理念ってなあ何だろう
ノートの上に
ぼくは言葉をならべる
時としてそれは
乾ききった空気のように感じられながら
人間ってなあ何だろう
人間ってなあ何だろう
*
たとえばそれは
海に向って
小石を投げ続ける行為(こと)のように
しあわせってなあ何だろう
やさしさってなあ何だろう
強さってなあ何だろう
今まで何でもない人が
突然大事な人になる
人間ってなあ何だろう
出逢いってなあ何だろう
愛・・・・・・・・
人生・・・・・・・・
うかんでくる海の風景
人間ってなあ何だろう
人間ってなあ何だろう
秋の終わりに
ぼくは自分と向い合う
かたかわみちお